シンシア動物病院

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シンシア動物病院(倉敷)ニュースレター22:子宮蓄膿症の新しい内科療法

      2019/08/01

以前、犬の妊娠中絶で紹介したAglepristone(Alizine)という薬が、子宮蓄膿症の治療に使える事を紹介しましたが、当院でも実際Aglepristoneの使用により、子宮蓄膿症を治療したので、その結果を報告します。結論から申しますと、いままで手術以外の治療法があまりなかった中で、それに匹敵する程の十分効果のある方法でした。
<方法>
症状、血液検査、エコー検査により子宮蓄膿症と診断された犬、14頭にAglepristone 10mg/kg、1回/日、2日間、皮下注射。全頭に抗生剤投与(オーグメンチンまたはアモキシシリンとタリビットの併用)、食欲低下の患畜には皮下補液。
1~2週間毎にエコー検査で子宮からの排膿が不十分な患畜はAglepristoneの再注射かPGF2α(50μg/kg)の注射を行う。
<結果>
13頭中(排膿している開放型11頭、排膿していない閉鎖型2頭)完治10頭、3頭は手術により治療。3頭の内2頭は治療途中、飼い主の希望により手術、残り1頭は2ヶ月たっても子宮の収縮があまり見られないため手術をした。

<考察>
従来の、PGF2α単独の治療は、子宮破裂の恐れがあるため閉塞型の場合行えなかったが、今回の治療では、これと言った副作用もなく、開放、閉塞関係なく行えた。Stefano Romagnoli,DVM,MS.PhD,(Canine Pyometra:Pathogenesis,Therepy and Clinical Cases;The WASAVA 2002 Congress)によると閉塞型で、治療開始26±13時間で排膿が起こり、PGF2αの併用で90%が完治。Trasch K,Wehrend A,Bostedt H,(J Vet Med A Physiol Clin Med.2003 Sep)らによると、52例中48例が完治、その後1年間で7例再発、うち2例は再治療し、1年以上異常なしという。
今回途中から手術した3例のうち、2例は、飼い主さんが治療中膿が出るのが嫌だ、早く直したいと言うことで手術をした。残る1頭は15日目でも子宮の収縮が少なく、再度Aglepristoneの注射をするが、25日目でも変化が見られないため手術した。この子は抗生剤がうまく飲ませられなかったことと、PGF2αとの併用療法をこのとき知らなかったため使用せず、Aglepristone単独療法となり、そのため子宮の収縮が悪かった可能性はある。それにしても治癒率は77%でかなりのもである。
Trasch K.らによると再発率は18.9%で、一部再治療してその後1年異常ないという。
手術により、根治するが、この新しい方法も選択肢の一つとして十分考えていい方法だと思う。
ただ陰部からの悪露が短い子で1週間、長い子で4週間ほど続き、ピークは最初の3~5日なのだが、それが耐えられない飼い主さんには手術がいいかもしれない。
安全性に関しては、手術リスクの高い患畜にも使用したが、治癒しており問題なく使用できると思う。
むしろ、手術できないのだから積極的に使用しても良いと思う。

一応この治療のガイドラインを作ってみた。
1.閉塞型で敗血症を起こしている患畜は即手術。
2.それ以外は、Aglepristoneによる内科療法。
  Aglepristone 10mg/kg S.C. SID 2days
抗生剤投与。(排膿が止まってもしばらく続ける。)
  食欲が出るまで補液療法。
3.2週間後にエコー検査
  子宮の収縮が悪い時は、PGF2α(ジノプロスト)50μg/kg S.C. SIDorBID 数日。
*最近では排膿が見られたら、PGF2αの代わりにミソプロストール(サイトテック)を抗生剤と併用して完全に良くなるまで投与してよい結果が得られている。サイトテックは子宮収縮作用のある胃薬で、PGF2αで見られる副作用も無く安全に使用できる。
4.1ヶ月後改善が見られない場合,もう一度繰り返す。
以上の治療でほぼうまく治るが、これで治らない場合は、手術になる。卵胞嚢腫があると反応しにくいらしい。また一例であるが、子宮水腫の症例に試みてみたが反応は見られなかった。子宮蓄膿症と子宮水腫とはメカニズムが違うのかもしれない。

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