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シンシア動物病院(倉敷)ニュースレター24:ウサギの胃停滞(毛玉症)の最新治療

      2019/08/01

先日、Exotic D.V.M. Magazineと言うエキゾチック・アニマル専門の獣医師雑誌を整理していたらウサギの胃停滞についての記事があった。その中で以前の治療があまり効果が無かったり、むしろ有害でさえあるという記事(Dana Krempels et al.)を紹介する。この記事は2000年vol.2.4に記載されて少し古いが、依然として昔ながらの治療が行われているところもあるみたいなので、紹介する。
原因は、不適切な食餌(低繊維・高たんぱく・高炭水化物)、ストレス(精神的、病気による痛みなど)、脱水、腸閉塞などである。それにより胃腸の動きが悪くなり、その結果腸内細菌のバランスが崩れClostridium菌などの悪玉菌が増え、毒素やガスが発生、それがさらに胃腸の動きを悪くして毒素が体に入り肝臓障害を起こし、死へと繋がることとなる。
症状は食欲低下、腸内ガスによる腹部膨満、糞量の低下(小さな糞)、下痢、沈うつ、体温低下などである。
治療は、腸閉塞がない場合、低下した消化管の運動を亢進させる為に、優しく腹部のマッサージを行ったり、消化管運動亢進剤(シサプリドor/andメトクロプラミド)の投与である。
脱水の補正のための輸液も行う。(ウサギは皮膚の張りで脱水状態を診るのは難しいので注意。脱水すると腸の運動が阻害され、悪玉細菌が増殖)
悪玉細菌の出す毒素に対しては、毒素の吸着剤として働くCholestyramineの投与を行う。(人のコレステロール減少薬。安全で効果的な薬であるが、十分な水分と一緒に投与しないと、強い親水性のため逆に腸を脱水させて症状を悪化させるので注意)
腸内ガスの除去のためにガスコンを(ジメチルポリシロキサン)1~2ml(20mg/ml溶液にして)1時間ごと3回投与する。これにより鼓腸による痛みが取れる。
痛みのストレスは、症状を悪化させるため、メタカム、カープロフェン、バナミンなどの鎮痛剤により楽にしてあげる。スルファサラジンは腸の炎症と痛みを止める効果がある。
ウサギにとって絶食は重大な肝臓障害を起こすので、食欲刺激剤としてペリアクチンやビタミンB複合体を投与して食欲を出してやる。食欲がなければ、ウサギの流動食であるClitical Care(Oxbow Hay Company)を強制給餌する必要がある。
以前、推奨されてたパイナップルジュース、パパイヤジュース、ヨーグルト、ワセリンなどの入った毛玉防止剤などはいまでは益がないばかりか、有害でさえあるため、現在では推奨されていない。その理由は、パイナップルとパパイヤに含まれている消化酵素(ブロメライン、パパイン)が毛玉を溶かす明確な証拠が得られなかったこと、さらには果物の糖分は、Clostridium菌などの悪玉菌を増やすためである。ヨーグルトを作るLactobacillus菌のドライパウダーは良いのだが、ヨーグルトは乳糖などの糖分が、これまた悪玉菌の増殖につながるので駄目である。ワセリンの入った毛玉防止剤は毛玉などの硬く固まった物質をコーティングして便として出やすくする働きがあるとされているが、実際には硬くなった塊をコーティングして柔らかくふやかされるのを邪魔する働きをしてしまうのである。
以上の方法で、腸閉塞以外のほとんどの症例はよくなる。当院の症例のほとんどは不適切な食餌が原因であった。パンなど糖質のものは避け、高繊維食、新鮮緑黄色野菜、適度な運動とストレスの無い飼い方で病気を防ごう。
以前は正しいと思っていたことが、調べてみると、実は根拠のないとであったりすることは良くある。
ワクチンの接種追加時期問題しかり、早期不妊手術
もそのひとつである。常に根拠に基づいた治療を心がけたいものである。しかし大変である。日進月歩、付いて行くだけで精一杯。犬猫だけなら兎も角、猿・ウサギ・フェレット・げっ歯類・鳥類・爬虫類、etc、何でこんなに色々飼うんだろう、人間は。

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