シンシア動物病院

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シンシア動物病院(倉敷)ニュースレター71:ストレスは傷の治りを遅くする

      2019/07/22

先月は、二度もインフルエンザで熱を出してダウン。一度目は伊豆の方に旅行して帰ってから。二度目は大学の内科教室の新年会に行ってからである。ちょっと人ごみにもまれただけでうつるなんて、軟弱になってしまった。と言う訳で久々のニュースレターである。
ストレスは万病のもとと昔から言われ、経験的に病気に罹りやすくなったり、治りにくしていることは、よく知られている。
ストレスがかかると、生体の反応は、交感神経が刺激されてアドレナリンが出、つぎに副腎皮質ホルモンが出てストレスに対処するのであるが、ストレスが長く続くとアドレナリンにしても副腎皮質ホルモンにしても体に悪い影響を及ぼす。
今まで、ストレスに対する悪い反応については、副腎皮質ホルモンについてよく着目され、免疫機能の低下など良く知られている。アドレナリンについては、血圧が上がるとか、血糖値があがるとかで病気を起こす可能性はあるが、それ自体が病気の治癒過程を遅らすことは知られていなかった。
それが、皮膚の損傷の治癒過程でアドレナリンの作用をブロックすることで治癒が早まるという報告(Raja K.Sivamani et al.PLOS Medicine Jan.2009 Vol6)があった。皮膚の角化上皮細胞にアドレナリンに反応するリセプター(β2アドレナリン受容体)があり、それを薬でブロックしてやると、上皮細胞の増殖、移動性が増して傷が早く塞がるという。試験管内やネズミを使った実験であるが、皮膚の傷を早く綺麗に治せるかもしれない。
現在の創傷治療は、組織の治癒能力を阻害しないようにウェットタイプのバンデージで傷を保護し、組織の治癒過程で必要な因子を取り除かないように修復を促すようにしている。
ウェットタイプなので傷に対する刺激が少なく、痛みのストレスが少なくなり、アドレナリンの放出が少なくなり傷の治りも早まるということになるのだろうか。理に適った治療法である。
実験で使われたβ2アドレナリンリセプター・ブロッカーが使えるようになるまでは、痛み止めやストレスが掛からないようにすれば良いだろう。
昔は、少々の痛みは我慢して耐えろ。とかいってぎりぎりまで我慢して痛み止めを飲まなかった。以前は痛み止めで胃潰瘍になることが多かったが、最近は改良されている。痛みは積極的に治療したほうが後々のために良い。痛みを持続させていると、痛みを感じる脳神経が過敏に反応するようになり、ちょっとした痛みでもかなり痛く感じるのである。
最近は、獣医療においてもペイン・コントロールを積極的にするようになった。物言わぬペットの痛みを出来るだけ取ってあげる事の重要性を、改めて感じる。
今後、さらに良い痛み止めの薬が出来ることを期待したい。

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