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シンシア動物病院(倉敷)ニュースレター58:ガン細胞とテロメア

      2019/07/22

テロメアって何だろう?
それは、細胞が分裂するとき、DNAの2重らせん構造がほどけて、それぞれほどけたDNAが複製されるのであるが、複製するときの足場となる部分が複製されずに残ってしまい、分裂するたびにDNAは短くなっていく。遺伝情報を持ったDNAが短くなると、当然細胞は生きられない、そこで細胞がとった戦略は、短くなっても大丈夫なような削りしろを用意した。それがテロメア構造である。DNAの塩基列がTTAGGGとなる配列が何度も繰り返された構造をしている。これが細胞分裂の度に、短くなるのである。細胞が何10回か分裂すると一定の割合で短くなり、最後は分裂を停止し寿命を迎えるのである。
しかし、寿命が有っては困る生殖細胞などは、短くなったテロメアを修復する働きを持ったテロメアーゼという酵素が働き、元どうりに修復するのである。これは常に若々しいDNAを、次世代に伝えると言うことであり、高齢出産で出来た赤ちゃんであろうと細胞の若々しさは一緒と言うことであろう。
このテロメラーゼ、がん細胞の7~8割が持っており、あの恐ろしいほどの生命力の源を担っているらしい。
そこで考えるのが、がんの治療にこのテロメラーゼの働きを抑えたら良いのではと言うことである。
実際、テロメラーゼ活性をもったがんに罹っている犬を使った実験(Veterinary and Comparative Oncorogy Vol.5,Number2,Jun 2007,P99-107)が行われていた。
結果は良く、テロメラーゼ活性は低下、テロメアは短くなり、がん細胞の成長は止まり、アポトーシス(細胞死)を起こした。まだ研究段階であるが、将来有望な治療法になり得るのではないだろうか。期待したい。副作用として考えられるのは、妊娠に関する問題と、血液の問題(赤血球、白血球の低形成)であろう。妊娠は避ければよいし、血液の問題も、骨髄を保存、培養して戻せば何とかなると思う。従来の抗がん剤治療に比べてターゲットが絞られている分、断然副作用は少ないと思う。この治療法、まずは犬で確立されそうなので、人より先に獣医療で広まるかも知れまい。

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